ゆうの介護コラム Column
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介護現場で救急車を呼ぶべきタイミングとは? 判断基準と注意点

介護の現場では、高齢の方や病気・障害のある方が生活しているため、急な体調の変化や事故がいつ起こるか分かりません。介護に携わる方やご家族にとって、いざという時の判断や対応に迷うことも多いでしょう。特に、救急車を呼ぶべきかどうかの判断は非常に重要で、早めの対応が救命や後遺症の軽減につながることもあります。

この記事では、介護現場で救急車を呼ぶべきタイミングや判断基準、症状別の対応方法、救急車到着までの準備について詳しくお伝えします。

1. 救急車要請の判断基準

1-1. 緊急性の高い症状

以下のような症状は緊急性が高く、迷わず119番に通報すべき状況です。

意識障害や反応の低下は、脳卒中や脳梗塞、低血糖、重度の感染症などの兆候である可能性があります。呼びかけへの反応が弱い、目を開けない、反応が著しく遅いなどの場合は、一刻も早い医療介入が必要です。

呼吸困難や胸痛も緊急度が極めて高い症状です。息苦しそうにしている、呼吸が浅く速い、胸が締めつけられるように痛い、唇や爪の色が紫色になっている(チアノーゼ)などの場合は、心筋梗塞や肺塞栓症、急性心不全などの可能性があります。

重度の出血や外傷として、出血が止まらない、大量に出血している、明らかに骨が折れている、頭を強く打ったなどの場合も、すぐに救急車を要請しましょう。高齢者の場合、大腿骨頸部骨折(太ももの付け根の骨折)は転倒時に特に多く、自力で動けなくなります。

これらの症状は命に関わる可能性があるため、判断に迷ったとしても「呼ばなかった」より「呼んだけれど軽症だった」方がはるかに安全です。

1-2. 要介護者特有の注意点

介護が必要な方は普段からさまざまな症状や変化を抱えている場合が多いため、「いつもの状態」との違いを見極めることが重要です。普段と比べて様子がおかしい、急に反応が鈍くなった、いつもは食べられるものが食べられない、会話ができないなど、「いつもと違う」という変化に気づくことが最初のシグナルです。

持病がある方は急激な悪化に特に注意が必要です。糖尿病の方は血糖値の急激な上昇(高血糖)や低下(低血糖)で意識障害を起こすことがあり、低血糖の場合はブドウ糖の摂取で改善する場合がありますが、改善しなければ直ちに救急要請が必要です。心臓病の方は突然の胸痛や呼吸困難、呼吸器疾患の方は急激な呼吸状態の悪化に注意しましょう。

服薬管理の面では、薬の飲み忘れや過剰摂取、複数の薬の飲み合わせによる副作用も急変の原因になり得ます。体調が急に変化した場合は、服薬状況を確認することも大切です。

1-3. かかりつけ医への相談基準

救急車を呼ぶべきか判断に迷った場合は、まずかかりつけ医に電話で相談するのも有効な方法です。軽い発熱や下痢で全身状態が安定している場合、軽度の転倒でバイタルサインに異常がない場合、持病の日常的な症状の範囲内と思われる場合などは、かかりつけ医に連絡して受診のタイミングや対応の指示を仰ぎましょう。

なお、夜間や休日でかかりつけ医に連絡がつかない場合は、救急安心センター(#7119)に電話すると、看護師や医師が症状を聞いたうえで、救急車を呼ぶべきか、自分で病院を受診すべきかをアドバイスしてくれます。

2. 症状別の対応方法

2-1. 転倒・転落時の対応

高齢者の転倒は骨折や頭部外傷につながるリスクが高いため、適切な初期対応が重要です。転倒を発見したら、まず周囲の危険物を取り除いて二次的な事故を防ぎます。高齢者を無理に動かそうとせず、頭や首を打っていないか、四肢に変形や腫れがないか確認します。

強い痛みで動けない、四肢が明らかに変形している、頭を打って嘔吐や意識の変化がある場合は、体を動かさずに安静を保ったまま救急車を要請します。救急隊が到着するまでは毛布やタオルで保温し、体温が下がらないようにしましょう。

頭を打った場合は、直後に症状がなくても数時間〜数日後に慢性硬膜下血腫などの症状(頭痛、嘔吐、意識の低下、片側の手足の麻痺)が出現することがあるため、少なくとも48時間は注意深く観察を続けてください。

2-2. 発熱・体調急変時

高齢者の発熱は、肺炎や尿路感染症、敗血症など重篤な疾患のサインである場合があります。まず体温を測定し、38度以上の発熱がある場合は、呼吸状態や意識レベル、水分摂取の可否を確認します。脱水予防のためこまめに水分を補給し、経口摂取が難しい場合は経口補水液を少量ずつ与えます。

発熱に加えて、呼吸が荒い、意識がもうろうとしている、急激に症状が悪化しているなどの場合は、すぐに救急車を要請しましょう。持病がある方は発熱が持病の悪化の兆候である場合もあるため、かかりつけ医への早めの連絡も重要です。

2-3. 誤嚥・窒息時

高齢者は嚥下機能の低下により、食べ物や飲み物が気管に入る「誤嚥」や、食べ物が喉に詰まる「窒息」のリスクが高くなります。窒息の兆候としては、突然声が出なくなる、顔が赤くなり苦しそうにする、両手で喉を押さえる(チョークサイン)などがあります。

窒息を確認したら、まず背部叩打法を行います。高齢者の横に立ち、片手で胸を支えながら肩甲骨の間を手のひらの付け根で力強く5回叩きます。これで吐き出せない場合は腹部突き上げ法(ハイムリック法)に移行します。高齢者の背後から両腕を回し、みぞおちの下で拳を握り、素早く上方に突き上げます。ただし、意識がない場合はハイムリック法は行わず、心肺蘇生法(胸骨圧迫)を開始しながら119番通報してください。

日頃の予防としては、食事はゆっくりとよく噛んで飲み込むよう促し、一口の量を少なめにすること、食事中の会話は飲み込んでからにすること、姿勢を正して食事をとることなどが効果的です。

2-4. 意識障害発生時

意識障害は脳卒中、低血糖、重度の感染症、薬の副作用など、さまざまな原因で起こります。大きな声で名前を呼び、肩を軽くたたいて反応を確認します。反応がない場合は意識障害と判断し、直ちに119番に通報します。

意識がない場合は、舌が気道をふさがないよう回復体位(横向き)にし、嘔吐がある場合は吐物が気管に入らないよう顔を横に向けます。呼吸が停止している場合は胸骨圧迫を開始します。救急隊が到着するまでの間に、発症時刻、直前の行動や食事内容、服用中の薬の情報を整理しておくと、搬送後の治療に役立ちます。

3. 救急車到着までの準備

3-1. 必要な情報整理

救急隊への情報提供がスムーズに行えるよう、日頃から以下の情報を整理しておきましょう。病歴として過去の大きな病気や手術歴、現在治療中の疾患を把握しておきます。服薬情報は現在服用している薬の種類・用量・服用時間をリスト化しておきます。かかりつけ医の名前、医療機関名、電話番号も整理しておきましょう。介護保険の要介護度や普段の生活動作(ADL)の自立度(歩行の可否、食事の自立度、排泄の状況など)も伝えるべき重要な情報です。

これらの情報をA4用紙1枚にまとめて、冷蔵庫の扉やベッドサイドなど目につく場所に掲示しておくと、緊急時に誰でもすぐに確認できます。

3-2. 準備すべき持ち物

救急車で病院に搬送される場合に備えて、保険証・介護保険証、お薬手帳(または服薬リスト)、介護記録や日誌、着替えや歯ブラシなどの日用品、現金やキャッシュカードをまとめた「緊急持ち出しバッグ」を普段から用意しておくと、いざという時に慌てません。入院が長期化する可能性も考慮し、最低限の日用品をすぐに持ち出せるようにしておきましょう。

3-3. 救急隊への伝達事項

救急隊が到着したら、いつから・どのような症状が出ているかの経過、普段と比べて何が違うか、持病やアレルギーの有無、服用中の薬の情報、家族や介護者の連絡先を伝えます。特に「いつから」の情報は、脳卒中の治療(t-PA投与)など時間制限のある治療の判断に直結するため、可能な限り正確に伝えてください。

4. 緊急時の情報共有体制

4-1. 家族間の連絡体制

緊急時に家族が迅速に連携できるよう、普段から連絡体制を整えておくことが重要です。電話、メール、LINEなど複数の連絡手段を共有し、「最初に発見した人が119番に通報し、次にキーパーソン(連絡の中心となる家族)に連絡する」といったルールを事前に決めておくとスムーズです。

普段から要介護者の体調や生活の様子を家族間で共有しておくことも大切です。共有メモアプリやグループLINEを活用して、日々の体調変化や服薬状況、介護で気になったことを記録・共有しておくと、緊急時の情報提供にも役立ちます。

4-2. 介護施設との連携

介護施設(通所介護や短期入所など)を利用している場合は、施設との連携も重要です。緊急時の連絡方法と対応の流れを事前に確認し、施設側にもかかりつけ医の情報や緊急連絡先を伝えておきましょう。施設によっては独自の緊急対応マニュアルがありますので、内容を把握しておくと安心です。

4-3. 医療機関との情報共有

かかりつけ医や受診中の病院には、普段から病歴や服薬情報を共有しておきましょう。定期受診の際に「体調が急変した場合の連絡方法や対応」を確認しておくと、いざという時に迷わず行動できます。お薬手帳は常に最新の状態に更新し、複数の医療機関を受診している場合は全ての処方内容を一元管理しておくことが重要です。

4-4. 緊急連絡先リスト

緊急連絡先をまとめたリストを作成し、家族全員が確認できる場所に掲示しておきましょう。リストには、家族・介護者全員の連絡先、かかりつけ医・病院の連絡先、介護施設や訪問看護ステーションの連絡先、ケアマネージャーの連絡先、救急(119番)と救急安心センター(#7119)の番号を記載します。冷蔵庫の扉、電話のそば、介護記録ノートの表紙など、すぐに目に入る場所に貼っておくのがポイントです。

5. 予防と日常の備え

5-1. リスク管理の方法

緊急事態を未然に防ぐためには、日常的なリスク管理が欠かせません。転倒・転落防止として手すりの設置、滑り止めマットの敷設、段差の解消などの環境整備を行いましょう。誤嚥・窒息防止として、食事形態の見直し(きざみ食やとろみ食への変更)や、食事中の姿勢・速度への注意が効果的です。持病の管理として定期受診と服薬管理を徹底し、薬の飲み忘れや飲み合わせにも注意します。

5-2. 緊急時対応マニュアル

家庭内で独自の緊急時対応マニュアルを作成しておくと、いざという時にパニックにならずに行動できます。症状別の対応手順(転倒時、発熱時、意識障害時、窒息時など)、連絡体制(誰が119番に通報するか、誰が家族に連絡するか)、持ち出し品リスト、救急隊への伝達事項をA4数枚にまとめ、家族全員で内容を確認しておきましょう。マニュアルは半年に一度は見直し、連絡先や服薬情報を最新の状態に更新しておくことが大切です。

5-3. 定期的な確認事項

緊急連絡先に変更がないかの確認、薬の種類や量に変更がないかのチェック、要介護者の体調や身体機能の変化の観察、対応マニュアルの内容が現状に合っているかの見直しを、月に一度程度の頻度で定期的に行いましょう。

5-4. 介護記録の活用法

日々の介護記録は、緊急時の医療情報としても非常に価値があります。食事量、排泄の状況、睡眠の質、体温やバイタルサイン、服薬状況、気になった変化などを記録しておくと、救急搬送時に医師への情報提供がスムーズになり、正確な診断・治療に役立ちます。

6. 搬送後の対応と手続き

6-1. 病院での情報提供

救急搬送された病院では、病歴・服薬情報、症状の発症時刻と経過、普段の生活やADLの状況、家族の連絡先を速やかに伝えます。お薬手帳や介護記録を持参していれば、正確な情報提供ができます。

6-2. 介護サービスの調整

入院が必要になった場合は、ケアマネージャーに連絡して介護サービスの調整を行います。訪問介護や通所介護の一時中止手続き、入院中の介護保険サービスの取り扱い、退院の見通しと退院後の生活環境の準備についてケアマネージャーと相談しましょう。退院後にスムーズに在宅介護を再開できるよう、入院中から準備を進めておくことが大切です。

6-3. 再発予防の対策

救急搬送に至った原因を振り返り、再発を防ぐための具体的な対策を講じましょう。転倒が原因であれば住環境の改善や筋力トレーニング、誤嚥であれば食事形態の見直しや嚥下リハビリ、持病の悪化であれば服薬管理の見直しや受診頻度の調整など、原因に応じた対策を医師やケアマネージャーと相談しながら進めます。

6-4. 今後の備え方

今回の経験を活かして、緊急時対応マニュアルの改善、家族間の連携強化、訪問看護や介護サービスのさらなる活用、定期的な健康管理の見直しを行いましょう。一人で抱え込まず、専門家の力を借りながら介護の質を高めていくことが大切です。

「訪問看護ゆう」では、介護現場での救急対応や訪問看護に関するご相談も承っております。お気軽にお問い合わせください。